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「人魚姫」日本語音声対訳 09 海の魔女のもとへ

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「さあ、陽気になりましょう。」と、おばあさまはいいました。
‘Let us be happy,’ said the grandmother;
「元気を出しましょう」と祖母は言った

「せっかくさずかることになっている三百年の寿命です。そのあいだは、好きにおどってはねてくらすことさ。
‘we will hop and skip during our three hundred years of life;
「楽しく生きましょう/ 三百年の命を」

それだけでもずいぶんながい一生ですよ。
it is surely a long enough time;
十分長い年月です

それだけに、あとはきれいさっぱり、安心して休めるというものだ。
and after it is over we shall rest all the better in our graves.
そしてそれが終われば/ 更に良い休息に入る/ 墓の中で

今夜は宮中舞踏会をやりましょう。」
There is to be a court ball to-night.’
今夜は宮廷舞踏会があります」

court 宮廷,宮中,王室
ball (盛大・公式な)舞踏会

さて、この舞踏会が、なるほど、地の上の世界では見られないごうかなものでした。
This was a much more splendid affair/ than we ever see on earth.
これはとても見事なものだった/ 私達がかつて地上で見たものよりも

affair 出来事, 事柄

大きな舞踏の間の壁と天井とは、あつぼったい、
The walls and the ceiling/ of the great ballroom/ were of thick
壁と天井は/ 舞踏の大広間の/ 分厚い

ceiling 天井
thick 厚みのある,厚手の,分厚い

そのくせ、よくすきとおったガラスで張りめぐらされていました。
but transparent glass.
だが透明なガラスである

transparent 透明な,透き通る

ばら色や草みどり色した大きな貝がらが、なん百としれず、四方の壁にかけつらねてあって、
Several hundreds of colossal mussel shells,/ rose red and grass green,
何百もの大きな貝殻は/ バラ色と草みどり色の

colossal 巨大な
mussel ムラサキイガイ

そのひとつひとつに、青いほのおの火がともっていました。
were ranged in order/ round the sides holding blue lights,
順番に並べられた/ 青い光を灯している側の周りに

range 並べる,整列させる
in order 順番に

それが広間をくまなくてらした上、
which illuminated the whole room
その光は部屋中を照らした

壁のそとへながれだす光が、
and shone through the walls,
そして壁から光が輝き出て

すっかり海をあかるくしました。
so that the sea outside was/ quite lit up.
それで外の海が/ すっかり照らされた

so that それで, そのため

ですから、大も小もなく、それこそかぞえきれないほどのさかなが、ガラスの壁にむかっておよいでくるのが、手にとるようにみえました。
You could see countless fish,/ great and small,/ swimming towards the glass walls,
あなたは無数の魚を見れる/ 大小の/ ガラスの壁に向かって泳いでいる

countless 数え切れない,無数の

うろこをむらさきの色に光らせてくるのもありました。
some with shining scales/ of crimson hue,
いくつかはウロコを輝かせ/ 深紅の

scale うろこ
hue 色合い,色調

銀と金の色にかがやいてくるものもありました。
while others were golden and silvery.
他には金や銀のも

ちょうど、広間のまん中のところを、ひとすじ、大きくゆるやかな海のながれがつらぬいている、
In the middle of the room was/ a broad stream/ of running water,
部屋の中央は/ 広々とした水の流れだった

broad 幅の広い, 広々とした
stream 一定の流れ; 流出; 奔流

その上で、男の人魚たちと女の人魚たちとが、人魚だけのもっているやさしい歌のふしでおどっていました。
and on this the mermaids and mermen danced/ to their own beautiful singing.
そしてここで男女の人魚達は踊った/ 彼らの美しい歌に合わせて

こんなうつくしい歌声が、地の上の人間にあるでしょうか。
No earthly beings have/ such lovely voices.
この世で存在しない/ そのような美しい声は

earthly 地球の,地上の

あのいちばん下の人魚の姫は、そのなかでも、だれおよぶもののないうつくしい声でうたいました。
The little mermaid sang/ more sweetly than any of them,
人魚の姫は歌った/ 誰よりも甘美に

みんないちどに手をたたいて、その歌をほめそやしました。
and they all applauded her.
そして全員彼女に拍手喝采した

applaud 拍手かっさいする, ほめる

その時は、さすがにこの姫も心がうかれました。
For a moment/ she felt glad/ at heart,
その間/ 彼女は嬉しく感じた/ 心から

それは、地の上はもちろん、海のなかにもまたふたりとないうつくしい声を、じぶんがもっていることが分かったからでした。
for she knew/ that she had the finest voice/ either in the sea or on land.
と言うのは彼女は知っていたから/ 自分が最良の声を持っていると/ 海中でも地上でも

でも、すぐとまた、上の世界のことをかんがえるいつものくせに引きこまれました。
But she soon began to think again/ about the upper world,
でも彼女はすぐにまた考え始めた/ 上の世界の事を

あのうつくしい王子のことをわすれることはできませんし、
she could not forget/ the handsome prince
彼女は忘れられなかった/ あの素敵な王子の事を

あのひととおなじに、死なないたましいをもっていないことが心をくるしめました。
and her sorrow in not possessing,/ like him,/ an immortal soul.
そして持っていない悲しみを/ 彼のように/ 死なない魂を

sorrow 悲しみ, 悲哀, 悲痛, 悲嘆
possess〈能力・性質などを〉持つ

そこで、こっそり、姫は、おとうさまの御殿をぬけだしました。
Therefore she stole out/ of her father’s palace,
それで彼女はそっと抜け出した/ 父の宮殿の外に

steal out 抜け出る;忍び出る

そうして、だれもそこで、歌って、陽気にうかれているまに、
and while/ all within was/ joy and merriment,
そしてその間/ 中に居る全員が/ 陽気に浮かれている

しぶんひとり、れいのちいさい花壇のなかに、しょんぼりすわっていました。
she sat sadly/ in her little garden.
彼女は悲しげに座った/ 自分の花壇の中で

そのとき、ひとこえ角笛のひびきが、海の水をわたって来ました。
Suddenly she heard/ the sound of a horn/ through the water,
突然彼女は耳にした/角笛の音を/ 水中から伝わって来た

その音をききながら、姫はおもいました。
and she thought,
そして彼女は思った

「まあ、いまごろ、あの方きっと、帆船をはしらせていらっしゃるのね。
‘Now he is out/ sailing up there;
今彼は外に出て/ そこで航海してるんだわ

ほんとうに、おとうさまよりもおかあさまよりももっと好きなあの方が、
he whom I love more than/ father or mother,
私がより愛する彼が/ 父や母よりも

しじゅうあたしのこころからはなれないあの方が、
he to whom my thoughts cling
私の心が一途な彼が

cling to 愛着をもって離れない

そのお手にあたしの一生の幸福をささげようとねがっているあの方が、あそこにいらっしゃるのね。
and to whose hands/ I am ready to commit/ the happiness of my life.
そして彼の手が/ 私が全てを捧げようとしてる/ 生涯の幸せの

commit すべてを捧げる

あたし、死なないたましいが手にはいるものなら、どんなことでもしてみるわ。
I will dare anything/ to win him/ and to gain an immortal soul!
私は何でもする!/ 彼の心を摑み/ 死なない魂を手に入れる為には

そうだ、おねえさまたちが、御殿でおどっていらっしゃるうち、
While my sisters are dancing/ in my father’s palace
姉達が踊っている間/ 父の宮殿で

あたし、海の魔女の所へ行ってみよう。
I will go to the sea-witch,
私は海の魔女の所へ行く

いつもはずいぶんこわいのだけれど、
of whom/ I have always been very much afraid;
その人/ 私がいつもとても怖かった

でもきっと、あの女なら相談相手になって、いいちえをかしてくれるでしょう。」
she will perhaps be able to/ advise and help me!’
彼女はおそらく出来る!/ 私に忠告して助けることが

そこで、人魚の姫は、花園をでて、
Thereupon the little mermaid left the garden
そこで人魚の姫は花園を離れ

thereupon そこで直ちに

ぶつぶつあわ立つうず巻の流れのなかへむかっていきました。
and went towards the roaring whirlpools
騒々しい渦巻きの方に向かった

roaring ごうごういう; 騒々しい
whirlpool 渦巻き

このうず巻のむこうに、魔女のすまいがありました。
at the back of which/ the witch lived.
うず巻の後ろに/ 魔女は住んでいた

こんな道をとおるのははじめてのことでした。
She had never been that way before;
彼女はその道を通った事がなかった

そこには花も咲いていず、藻草も生えていません。
no flowers grew there,/ no seaweed,
そこは花は咲かず/ 海草も繁らない

seaweed 海藻

ただむきだしな灰いろの砂地が、
only the bare grey sands,
一帯は灰いろの砂地があるだけ

bare 家具のない,がらんとした

うずのながれの所までつづいていて、
stretched towards the whirlpools,
うず巻の所まで広がっていて

stretch 広がる,及ぶ,達する
towards = toward

そのながれはうなりを立てて、水車の車輪のようにくるりくるりまわっていました。
which like/ rushing mill-wheels/ swirled round,
それは似ている/ 水車に流れ込むのに/ 周りに渦を巻く

rush 突進する,殺到する
mill-wheel (水車場の)水車
swirl 渦を巻く

そうして、このうず巻のなかにはいってくるものは、なんでもつかまえて、こなごなにくだいて、ふかいふちに引きこみました。
dragging everything/ that came within/ reach down to the depths.
(それは)すべてを引きずり込み/ 中に入って来た/ 深みへと到達する

drag 引きずり込む,引き入れる
reach 達する,及ぶ,届く

このはげしいうずのながれの、しかもまん中をとおって行くほかに海の魔女の領分にはいる道はありませんし、
She had to pass/ between these boiling eddies/ to reach the witch’s domain,
彼女は通らねばならなかった/ これらの煮え立つ渦巻きの間を/ 魔女の縄張りに入るには

eddy (風・ほこり・霧・煙などの)渦巻き
domain 領地, 領土

それも、ながいあいだ、ぶつぶつ煮えて、あわだっているどろ沼をわたって行くよりほかに道はないのです。
and for a long way/ the only path/ led over warm bubbling mud,
それも長い間/ その唯一の道を/ 熱く泡立つ泥を通る

path (人に踏まれてできた)小道, 細道
lead (…を)通る
mud 泥, ぬかるみ

この沼を、じぶんのすくも田という名で魔女はよんでいました。
which the witch called/ her ‘peat bog.’
それを魔女は呼んだ/ 彼女の「泥炭地」と

peat 泥炭, ピート
bog 湿原, 沼地
peat bog 泥炭沼, 泥炭地

これを行きつくした奥に、きみのわるい森が茂っていて、そのなかに魔女の住居はありました。
Her house stood behind this in the midst of a weird forest.
彼女の家は立っていた/ これの後の/ 怪しい森の中央に

weird 異様な,気味の悪い,この世のものでない

その森のなかの木立もやぶも、半分は動物、半分は植物というさんご虫なかまで、
All the trees and bushes were polyps,/ half animal and half plant;
すべての木と茂みはポリープで/ 半分の動物と半分の植物の

bush やぶ,茂み
coral-polyp 珊瑚虫

それはいわば、百あたまのあるへびが、地のなかから、にょろにょろわき出ているようなものでした。
they looked/ like hundred-headed snakes/ growing out of the sand,
彼らは見えた/ 百の頭のヘビのように/ 砂に生えている

その一本一本の枝が、ながい、ねばねばした腕で、
the branches were long slimy arms,
枝は長いぬるぬるした腕で

slimy ぬるぬるした,粘液性の

くなくなと、さなだ虫のような指が出ていました。
with tentacles/ like wriggling worms,
触手が付いていた/ 体をくねらせてる虫の様な

tentacle 触手, 触角
wriggle 体をくねらせる, 身をよじる
worm (細長く足のない)虫

そうして下の根もとから枝のずっとさきまで、ふしぶしが
every joint of which,/ from the root to the outermost tip,
そのあらゆる継ぎ目は/ 根元から一番遠い先端まで

root (植物の)根
outermost 最も外側の, いちばん遠い
tip 先端

自由にうごきました。
was in constant motion.
一定の動きをしていた

constant 不変の, 一定の

ですから、海のなかで手につかめるものは、なんでもつかんで、
They wound themselves tightly/ round whatever
それらはきつく巻きついた/ 四方に何でも

wind 巻きつく,からみつく
tightly 堅く, しっかりと
round の周りに[を], …の四方に
whatever (…する)ものは何でも

しっかりとそれにからみついて放そうとはしません。
they could lay hold of/ and never let it escape.
それらは絡みつき/ 決して逃れさせなかった

lay hold of …をつかむ, を握る

人魚の姫は、すっかりおびえて、そのまえに立ちすくみました。
The little mermaid standing outside was/ quite frightened,
外に立っている人魚の姫は/ ひどく怯えた

もうおそろしくて、心臓がどきどき波をうって、
her heart beat fast/ with terror
心臓は速く鼓動した/ 恐怖で

terror (非常な)恐怖

なんべんもそこから引きかえそうとおもいました。
and she nearly turned back,
そしてもう少しで引き返すところだった

nearly ほとんど,もう少しで

でもまた王子のことと、人間のたましいのことをおもうと、
but then she remembered/ the prince and the immortal soul of mankind
でも彼女は思い出した/ 王子と人間の死なない魂の事を

勇気がでました。
and took courage.
そして勇気を得た

姫は、そこでまず、うるさくまつわるながい髪の毛を、しっかりあたまにまきつけて、
She bound/ her long flowing hair/ tightly round her head,
彼女は結びつけた/ 長い流れる髪を/ きつく頭の周りに

bind 縛りつける,結びつける

さんご虫につかまらないようにしました。
so that the polyps should not seize/ her by it,
ポリープが捕まえないように/ それによって彼女を

seize (突然ぎゅっと)つかむ,握る,捕まえる

それから、両手を胸の上で重ねて、
folded her hands/ over her breast,
両腕を組んだ/ 胸の上で

fold 折りたたむ,収める

おさかなが水のなかをつういとつっきるように、いやらしいさんご虫どもが、くなくなした指と腕とをのばそうとしているなかをつっきって行きました。
and darted like a fish through the water,/ in between the hideous polyps,/ which stretched out/ their sensitive arms and tentacles/ towards her.
そして魚の様に水中を突進した/ 恐ろしいポリープの間を/ 敏感な腕と触手を伸ばした/ 彼女の方に

dart (投げ矢のように)飛んでいく; 突進する
hideous ひどく醜い; 見るも恐ろしい,ぞっとする
sensitive 敏感な, 敏感に反応する
tentacles 触手

まあ、このいやな虫は、みると、そのひとつひとつが、そのつかんだものを、まるでつよい鉄の帯でしめつけるように、そのなん百とないちいさな腕で、ぎりぎりつかまえていました。
She could see/ that every one of them had/ something or other,/
which they had grasped/ with their hundred arms,/ and which they held/ as if in iron bands. 彼女は見た/ 彼らの一つ一つが掴んでいるのを/ 色々なものを/ それらを彼らは締め付けた/ 百もの腕で/ そしてそれらを彼らは動けなくした/ 鉄の腕がするように

grasp ぎゅっとつかむ,しっかりと握る

海でおぼれて、このふかい底までしずんだ人間が、白骨になって、
The bleached bones of men/ who had perished at sea and/ sunk below
白骨になった人間の骨が/ 海で死に/ 底に沈んだ

bleach 漂白される
perish (突然または非業な死に方で)死ぬ

さんご虫の腕のあいだにちらちらみえていました。
peeped forth/ from the arms of some,
垣間見れた/ ポリープの腕のいくつかから

peep のぞき見する, のぞく
forth 前へ,見える所へ

船のかいや箱のようなものまでも、さんご虫はしっかりつかまえていました。
while others clutched/ rudders and sea-chests,
他のポリープは掴んでいた/ 船の舵や水夫の衣装箱を

clutch ぐいとつかむ, しっかり握る
rudder (船の)かじ
chest (通例ふた付きの丈夫な大型の)箱, ひつ

おかの動物のがい骨もありましたが、
or the skeleton of some land animal;
地上の動物の骸骨も

人魚のむすめがひとり、つかまってしめころされているのが、なかでもおそろしいことにおもわれました。
and most horrible of all,/ a little mermaid/ whom they had caught and/ suffocated.
最も恐ろしかったものは/ 1人の人魚の娘/ 彼らに捕まって/ 窒息させられた

suffocat〈…の〉息を止める、〈…を〉窒息死させる